Interview 01
五感浴バスルーム・プロジェクト
共同開発者インタビュー【前編】
saibathのオリジナルバスルーム「五感浴バスルーム」は、バスルームと自然の映像、5.1ch立体音響が一体化! 前後左右、さらには、上下から音を浴びることで、都会の一戸建てやマンションにいながら、まるで自然の中の露天風呂に浸かっているようなひとときを五感で体験できるヒーリング・バスルームです。今回は、その開発にご協力いただいた環境音楽家・小久保隆さんに、コンセプトや開発の背景について、弊社バスルームプロデューサー・大塚晃がうかがいました。
大塚:今回、saibathの新バスルームの開発にご協力いただいた小久保さんですが、環境音楽家、サウンドクリエーターとして長年第一線でご活躍されていますね。たとえば、地震の際に携帯電話で鳴る「ウィー、ウィー、ウィー」という緊急地震速報音や、電子マネー「iD」の決済音、横浜市のサウンドロゴなど、私たちの日常に深く入り込んでいる音を手がけられています。一方で、自然を感じさせる環境音楽も数多く発表され、2020年には参加されたコンピレーション・アルバムがグラミー賞にもノミネートされています。緊急地震速報と環境音楽って、真逆のように思えるのですが、どういうコンセプトで制作されているんでしょう?
小久保:たしかに、目的としては正反対ですよね。環境音楽は人をリラックスさせ、緊張を和らげるもの。一方で緊急地震速報は、人の意識を一瞬で覚醒させ、冷静に避難行動が取れるように促すものです。でも、どちらも「音による作用」を考えて作っていることには変わりありません。私は自分のことを「音のメディアプロデューサー」または「サウンドデザイナー」だと捉えています。たとえばCDやストリーミングもメディアですが、私が扱っているのは、駅や家など、日常に溶け込んだ“音環境”全体がメディアになるような音。暮らしのあらゆる場面で鳴る音が、人と空間をどうつなぐのか、それが私のテーマなんです。
大塚:若い頃から、そうしたスタンスで音楽を作られていたんですか?
小久保:20代の頃はテクノポップをやっていたんですが、途中から真逆の方向——つまり、ゆっくり深呼吸できて心がゆるむような音楽に惹かれて、環境音楽にシフトしました。都市に暮らす多くの人たちが、知らず知らずのうちにストレスを抱えて生きている。そんな現実を見て、音という手段でその助けができたら、と思うようになったんです。
大塚:今回、なぜバスルームの開発に関わろうと思われたんですか?
小久保:お風呂って、環境音楽と同じく「人間のストレスを癒す力」を持っていると思うんです。むしろ、音楽より強力かもしれない(笑)。私自身、“ストレスフリーな生き方”というのを実験のように探っていて、たとえば今住んでいる南アルプスのふもと、山梨県北杜市の森の中の家も、いい空気を吸ってクリアな感覚で音と向き合いたいという意図から選んだ場所なんです。お風呂についても、毎回ぬるめのお湯に30分以上ゆっくり浸かるようにしています。シャワーだけではリセットできない。だから、お風呂という存在に対して、いつか理想の空間を作ってみたいという思いがずっとありました。
大塚:開発時には、海外のお風呂についても話してくださいましたね。
小久保:はい。私は自然音の採取のために年3回は海外を旅しているんですが、今までに約50カ国ほど回りました。その中で、各国のお風呂の文化にも注目しています。 安宿が基本ですが、旅の終盤には少し特別なホテルに泊まって、そこのバスルームをじっくり味わうんです。 私にとって“音でもてなす”ことは重要なテーマなので、世界のホテルやお風呂のつくり方からも、音づくりのヒントを得ることもあります。 お風呂って、一日の疲れを洗い流し、心身をリセットしてくれる場所。音楽ととても近いんです。
大塚:そもそも今回の共同開発のきっかけは、私が偶然、小久保さんの環境音楽と映像作品に出会ったことでした。 saibathで新開発していた映像付きバスルームに、ぜひこの音楽と映像を使いたい!とご相談したのがスタートでした。
小久保:あの時「リラクゼーションという価値をお風呂にプラスしたい」というお話をうかがって、「まさに、自分が音楽でやってきたことと同じだ」と思いました。ちょうどその頃、私のスタジオの増築計画もあって、タイミングがぴったりだったんです。山梨の森の中にあるそのスタジオは住居の隣棟にあり、これまでトイレしかなかったんですね。でも、やがてここで一日過ごせるようにしたいと思っていて、バス・キッチン・ベッドルームなどを増やす計画を立てていたところだったんです。
設計図もできて、工務店に勧められた大手バスメーカーのカタログを見ていた時に、大塚さんと出会った。
「これだ」と思いました。「フルオーダーのsaibathなら、自分の理想に限りなく近いリラックス・バスができる」と。
大塚:スタジオの増築の一環として、「五感浴バスルーム」のプロトタイプを製作していこう、ということになったんですね。
小久保:はい。「音と映像をテーマにしたバスルームにしよう」ということで、没入できる音の空間——いわゆる“イマーシブ”なバスルームを目指しました。ポイントは「音を聞く場所=リスニングポイント」です。浴室のど真ん中で音に浸りながら湯船に入れるように設計したかった。でも、浴室が1700×1700mmと限られていて、800×1600mmの浴槽を入れたかったので、普通のバスルーム設計では難しかった。
大塚:それで、出入り口やシャワーの位置を調整して、浴槽を空間の中央にレイアウトするという、今までにない配置を提案しました。
小久保:既存のシステムバスでは実現できない置き方でしたが、作ってみるとすごく良かった。そして「五感が癒される風呂を」というコンセプトから、 “自然の中のバスルーム”というテーマを設定しました。鳥の声や風の音が聴こえるバスルーム。私が設計した音響システムで自然の音を流し、大型モニターを、まるで窓枠から自然の景色を実際に眺めているように、浴室の壁に設置しました。
大塚:自然の中にいるような…と言葉で言うのは簡単ですが、単にモニターと市販のスピーカーを置いた音と映像が流れるという仕組みでは、自然の中にいるような没入感は生まれませんでした。小久保さんにイチから音響システムと自然の音を作っていただくことで、本当に自然の中にいるようなバスルームができました。
小久保:既存のバスルームや温泉などで、お風呂で環境音を流しているものに出会ったこともありますが、質の悪いスピーカーでどうでもいい音を流しているだけ。音のプロから見ると、全然ダメでした。そこで私が大塚さんに提案したのがピラミッドタイプのサウンドです。浴槽にいる人の耳を中心として、ピラミッドの形でバスルームに5つのスピーカーを置きました。頭上に1つ、バスルームの四隅に4つです。5つのスピーカーのうち、例えば天井からウグイスの声が、前のスピーカーから小川のせせらぎの音が、後ろでは森の風がざわめいているような、立体感のある音空間を作ったわけです。さらに、低音の響きを身体で直接感じられるように、サブウーファーを設置しています。
大塚:また、アロマディフューザーなど香りの器具を、オプションとして浴室に設置することも可能です。
小久保:私も浴室にディフューザーを設置しました。音と映像に香りが加わることで、五感が心地よく刺激されて、気持ちが自然とほどけたり、穏やかになっていく感覚がありますね。
大塚:本当に贅沢な空間ですよね。そしてこの空間の魅力は、それだけでは終わらない。
小久保さんが実際に日々使っていく中で、バスルームの使い方の可能性がさらに広がっていきました。
※次回は、「五感浴バスルーム」が持つ多彩な使い方と、その進化する機能性についてお話を伺います。どうぞお楽しみに。
小久保 隆氏(Takashi Kokubo)
環境音楽家・サウンドデザイナー・メディアプロデューサー。株式会社スタジオ・イオン代表取締役、放送大学非常勤講師。
緊急地震速報のアラーム音や、電子マネー「iD」の決済音など、私たちの日常に深く関わる“機能音”を数多く手がける一方で、自然音や1/fゆらぎを活かした独自の環境音楽を40年以上にわたり追求。音で空間や心に癒しをもたらすその仕事は国内外で高く評価され、作品が収録されたコンピレーション・アルバム『Kankyo Ongaku』は2020年グラミー賞にもノミネートされた。